横浜地方裁判所 昭和39年(ワ)243号 判決 1965年4月06日
原告 東洋濾砂工業株式会社
被告 新日本産業株式会社
主文
(一) 被告は原告に対し、金三一七、一三九円及びこれに対する昭和三九年三月一一日から完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。
(二) 原告のその余の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告、他の一を原告の各負担とする。
(四) 第一項は仮りに執行することができる。
事実
第一原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金五一三、四二一円およびこれに対する昭和三九年三月一一日から完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との、仮執行の宣言ある判決を求め、請求の原因としてまた被告の抗弁に対して、次のとおり述べた。
(一) 原告会社は、水道用濾過砂、砂利等を採取及び販売し、被告会社は右同種物品を他人に仲介販売することを業とするものである。
原告会社は被告会社に対し、支払請求書を毎月末に締切り、代金は請求書締切の翌々月一〇日現金払いとする約定で、右水道用濾過砂、砂利等を継続して販売して来たが、現に被告会社に対し、次のとおりの売掛代金等債権を有する。
(1) 昭和三八年六月分残金 三、九六〇円
(2) 同年七月八日請求(日本精糖引渡分) 四九、九九六円
(3) 右同日請求(旭ダウ引渡分) 九五、七八五円
(4) 同年同月一五日請求(埼玉県庁引渡分) 四、七八〇円
(5) 右同日請求(尾間木浄水場引渡分) 三五八、九〇〇円
合計 五一三、四二一円
よつて原告は被告に対し、右売掛代金等金五一三、四二一円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和三九年三月一一日から完済まで年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める。
(二) 被告主張の相殺の抗弁事実は否認する。
(1) 原告と被告との間に、被告が訴外株式会社荏原製作所に納入するため、濾過用硅砂および濾過用砂利について被告主張のとおりの売買契約が成立したことは認めるが、右売買契約は以下に述べるような経緯で適法に解除されたのであるから、原告が被告に対しその不履行に基く損害賠償債務を負担すべき理由がない。
すなわち、右売買契約における代金の支払い条件も従前どおり請求書締切りの翌々月一〇日払いとされていたのであるが、右売買契約の履行にさきだち、被告は、昭和三八年六月一〇日に支払うべき金三、八六三、〇二五円につき、僅かに金九一三、九七五円しか支払わず、残額金二、九四九、〇五〇円については、何回も交渉の末ようやく同年九月三〇日支払期日の約束手形を交付する仕末であつた。そのうえ被告は、昭和三八年七月八日に至り、従前の代金支払いの約定を一方的に変更して、支払期日を一カ月延期しかつ現金又は手形払いとする旨を原告に通知して来た。その通知書(甲第五号証)の一例によると、四月中の納入分については七月一〇日が支払日となり、しかもその支払がそれより三月先に満期の到来すべき約束手形によるというのであつて、これでは現実に代金が支払われるのは一〇月一〇日ということになり、実に物品納入後六カ月の期間を要することになる。又被告は、同年七月一〇日に支払うべき二〇〇万円については、約束手形をも出し渋る有様で、漸く同年八月一〇日、一〇月一〇日を各支払期日とする額面一〇〇万円の約束手形二通を交付して支払いに充て、従前の支払いに関する約定を勝手に破る態度に出た。
これらのことは、被告会社の経理状況悪化を物語るものであると同時に、継続的取引を行つて来た原告に対する重大な背信行為というべきである。しかも被告会社はいわゆるブローカーであつて、その振出す約束手形など信用のおけるものではなかつた。そこで原告は、被告の違約を責めるとともに、とりあえず履行期の迫つていた前記売買契約について、昭和三八年七月二四日被告に対し、前金払でなければ出荷できない旨を申し入れたが、何らの回答を得られなかつたので、さらに同月二五、六日頃、二、三日以内に諾否の回答が得られないときは本件取引は取止める旨の停止条件付契約解除の意思表示をしたが、被告からは同月中に何の回答もなかつた。
以上のように、被告側に取引上の重大な背信行為がある場合に、原告がその飜意を求めて右のような停止条件付契約解除の意思表示をすることは、適法な解除権の行使というべく、これに対し被告から何の回答もなかつたのであるから、遅くも同月末日の経過により、条件が成就して右の売買契約は適法に解除されたことになる。
されば、右売買契約の不履行に基く損害賠償債権あることを前提とする被告の相殺の抗弁は失当である。
(2) なお、原告が被告からその主張のとおり麻袋およびシートの寄託を受けたことは認めるが、これらは被告との間の既往の取引に使用する目的で交付されていたもので、すでに既往の取引についての材料として使用し、被告の指定した納入先に納入ずみのものであるから、原告が勝手に処分したものではない。従つて原告にその損害賠償の責任あることを前提とする被告の相殺の抗弁もまた失当である。
第二被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、次のとおり答弁した。
(一) 原告主張の(一)の事実中、原告会社の営業及び被告会社が水道用濾過砂、砂利等を他人に仲介販売している事実および被告が原告からその主張のような約定で(但し現金払いとの点を除く)、継続して水道用濾過砂、砂利等を買い受けて来たことは認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 仮りに被告が原告主張のような売買代金債務を負担しているとされるときは、被告は次のとおり相殺の抗弁を主張する。
(1) 被告は、昭和三八年三月一〇日頃訴外株式会社荏原製作所から次の注文を受けてこれを承諾した。
(ア) 売買の目的物件 別表(一)(A)欄及び(B)欄記載のとおり
(イ) 数量及び単価 同表(C)欄及び(D)欄記載のとおり
(ウ) 売買代金 同表(E)欄記載のとおり
(エ) 納期限 昭和三八年五月末日
(オ) 受渡場所 会津若松市一箕町中切符
会津若松市滝沢浄水場及荏原インフイルコ株式会社工事現場指定場所
(カ) その他の条件
訴外会社は、運賃として被告に対し次のとおり合計金四七四、三一八円を支払うこと。
鉄道運賃及び日通扱料(硅砂の分) 一五三、六三〇円
同 (砂利の分) 一五六、一五〇円
会津若松駅から受渡場所迄の配達料 一六四、五三八円
被告は右の売買代金八五七、〇五〇円及び運賃四七四、三一八円の合計金一、三三一、三六八円から金一、三六八円を値引きするものとして、訴外会社は右売買に基づく代金等として被告に金一、三三〇、〇〇〇円を支払うこと。
そこで被告は、直ちに原告に対して次のとおり注文をし、原告はこれを承諾した(以下これを本件売買契約という)。
(ア) 売買の目的物件 前記と同じ
(イ) 数量及び単価 別表(一)の(C)欄及び(F)欄記載のとおり
(ウ) 売買代金 同表(G)欄記載のとおり
(エ) 納期限 前記と同じ
(オ) 受渡場所 前記と同じ
(カ) その他の条件 被告は原告に運賃実費を支払うこと。
その後訴外会社の都合で納期限が三回にわたり変更され、結局昭和三八年七月二五日から同年八月五日迄の期間に納入するよう指定されたので、被告も原告に対し納入期限を右のとおり変更すべき旨を通告し、原告もこれを了承したが、原告は本件売買契約を解約したと称してその債務の履行を怠つたため、被告は訴外会社に対し前記売買契約に基く債務の履行ができなくなり、このため被告は訴外会社に転売することによつて得べかりし利益を失い、これと同額の損害を蒙つた。
その額は、被告が訴外会社から受領すべき金員一、三三〇、〇〇〇円から、被告が原告に対して支払うべき、別表(一)(G)欄記載の代金八〇六、一七五円、鉄道運賃実費硅砂分八五、三三〇円、同砂利分一〇三、八五〇円、会津若松駅から受渡場所までの配達料一三一、八〇〇円、以上合計一、一二七、一五五円を差引いた残額二〇二、八四五円である。
(2) 被告は、昭和三七年六月二三日から昭和三八年六月一二日までの間に原告に別表(二)記載のとおり合計一四、〇三九枚の麻袋(単価五六円)を寄託したが、原告はそのうち四六三枚を被告に無断で処分し、このため被告は金二五、九三八円の損害を蒙つた。
(3) 被告は、昭和三七年一一月二一日頃原告に麻袋シート三〇枚(単価一、二七五円)を寄託したが、原告は被告に無断でこれを処分したため、被告は金三八、二五〇円の損害を蒙つた。
以上のとおり、被告は原告に対し合計金二六七、〇三三円の損害賠償債権をもつているから、被告は昭和三九年四月二七日の本件第一回口頭弁論期日に右損害賠償債権と原告から被告に対する本件売掛代金債権五一三、四二一円とを対当額で相殺すべき旨の意思表示をした。されば原告の本件売掛代金債権はその限度で消滅し、本訴請求中これを超える部分は失当である。
(三) 原告は本件売買契約が適法に解除されたと主張するが、これは理由がない。すなわち、原被告間の従前の取引において、代金の支払方法が現金払いと約定されていたことはなく、被告会社は手形払いを原則としながらもできるだけ現金で支払つて来ていたにすぎない。そして被告会社は、手形による支払いをする場合でも、できるだけ原告の希望にそうように努めて来た。例を挙げると、昭和三八年六月一〇日に支払うべき三、八六三、〇二五円について原告主張のとおりの支払方法をとつたことは争わないが、そのうち金額五〇万円の約束手形一通については、原告の希望を容れて、支払期日を昭和三八年七月五日とする約束手形に書きかえて原告に交付したことがあり、また同年七月一〇日に支払うべき二〇〇万円について、金額各一〇〇万円の原告主張のような約束手形二通を原告に交付したのは事実であるが、この手形を出し渋つたことなどはなく、原告にこれを交付したのは同年七月一一日および同月二〇日であつて、以上の約束手形はいずれも支払期日に支払いを了えている。一方、被告会社が昭和三八年七月八日付で原告に対し、代金支払方法に関し原告主張のような通知を発したことは認めるが、これは代金の支払日を従前より一カ月延期してもらいたいと申し出たものにすぎず、原告主張のように従前の支払方法を一方的にしかも長期間の延長を定めて通知したものではない。
ところが原告は、本件売買の目的物件の発送開始予定日の翌日であつた昭和三八年七月二四日になつて、代金の支払日を一カ月早めてもらいたいと申し出たうえ、同月二六日になつて、前金払いでなければ出荷できないと言つて来た。そこで被告会社では、出荷が延びて得意先である荏原製作所の信用を失うことをおそれ、とにかく予定どおり出荷してもらいたいため、昭和三八年八月一日原告に対し、前金払いの条件を容れるから予定どおり出荷してもらいたいと申し出たが、原告はこれをことわる態度に出て、その数日後本件売買契約の注文書を他の取引に関する注文書とともに被告会社に返送して来た。
原告が本件売買契約は解除されたと主張する経過の大要は右のとおりであるが、これによつてみると、被告にはなんら取引上の背信行為とみるべきものがなく、原告に本件売買契約の解除権が生じたとすべき事情はないといわなければならない。仮りに、原告主張のように、原被告間に現金払いの約定があり、被告が昭和三八年七月八日付で代金支払条件を一方的に変更することを通知したものとしても、原告が本件売買に関して最終的に提案した前金払いの条件を被告会社が承諾したのであるから、原告に契約解除権など発生するはずがない。
以上のとおり、原告に本件売買契約解除権はなく、従つてその履行を怠つた原告は、被告に対し損害賠償の義務を負つているものであり、被告の相殺の抗弁は適法である。
第三証拠関係<省略>
理由
一、原告会社が水道用濾過砂、砂利等を採取販売し、被告会社が右同種物品を他人に仲介販売することを業としていたこと、被告会社が原告からその主張のような約定で(但し現金払いとの点を除く)、継続して水道用濾過砂、砂利等を買い受けて来たことは、当事者間に争いがない。
二、まず、原告主張の被告に対する売掛代金債権の存否について判断する。
証人小松吉男の証言により真正に成立したことが認められる甲第一号証の一、甲第二号証の一ないし三、甲第四号証の一ないし五及び真正に成立したことに争いのない甲第一号証の二、三、甲第二号証の四、甲第三号証の一、三、甲第四号証の六および小松証人の証言を合せ考えると、原告は被告に対し、水道用濾過砂および砂利等の売買により、運賃、荷造料を含めて、原告主張(一)記載のとおり、合計金五一三、四二一円の売掛代金債権を有することを認めることができる。他にこの認定を動かすに足る証拠はない。
三、よつて次に、相殺の抗弁について判断する。
(1) 昭和三八年三月頃原、被告会社の間に、被告が訴外株式会社荏原製作所に納入するため、濾過用硅砂および濾過用砂利について被告主張のとおりの本件売買契約が成立したことは、当事者間に争いがない。そして被告会社から右訴外会社への納入期限が昭和三八年七月二五日から同年八月五日まで延期されたに伴い、原告から被告への納入期限も右同様に延期されたことは、原告が明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。
ところで原告は、本件売買契約が原告のした停止条件付契約解除の意思表示により、遅くも昭和三八年七月末日をもつて解除された旨主張するので、まず原告に解除権があつたか否かについて検討を加える。
真正に成立したことに争いがない甲第五号証、証人小松吉男、同今川一の各証言及び弁論の全趣旨を併せ考えると、原、被告会社の取引については、その売掛代金の決済は、支払請求書を毎月末に締切り、その翌々月一〇日現金払いとすることの約定があり、従前はこの約旨にそつて取引が行なわれて来た事実を認めることができる。
証人阿部安雄第一、二回の証言中右認定に副わない部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
然るに被告が、昭和三八年六月一〇日に原告に対し支払うべき三、八六三、〇二五円について内金九一三、九七五円を現金払いしたに止まり、残金二、九四九、〇五〇円につき同年九月三〇日満期の約束手形を交付したこと、同年七月一〇日に原告に支払うべき二〇〇万円につき、同年八月一〇日及び一〇月一〇日満期の額面各一〇〇万円の約束手形二通を交付したこと、また被告が同年七月八日付で、代金支払方法を変更して、支払日を一月延期し現金又は約束手形払いとする旨原告に通知したことは、当事者に争いがない。
そして証人小松吉男、今川一、阿部安雄(第一、二回)の各証言によると、右の支払方法変更の通知を受けた原告会社では、直ちに業務課長小松吉男や総支配人今川一らが被告会社に出向いて、右の支払方法変更の申出を撤回することを求めたが、被告会社ではどうにも仕方がないと言つて応じなかつたこと、そこで原告会社は、本件売買契約の履行期が迫つた昭和三八年七月二三、四日頃再三被告会社に電話して、本件売買代金を全額前金払いするのでなければ取引をするわけにいかない、二、三日中にこれに対する返事がなければ出荷を取り止める旨強く申し入れたこと、これに対し、被告会社の取締役阿部安雄が同年八月一日原告会社へ出向いて、全額前払いの条件に応ずるから直ちに出荷してもらいたいと答えたところ、原告会社では、さきに返事を促した期間を過ぎているから本件取引はことわるといつて、本件売買契約解除の意思表示をしたことを認めることができる。阿部証人の証言(第一、二回)中、右認定と合わない部分は採用することができず、他に右認定を動かすに足る証拠もない。
以上認定の被告会社が取引代金の支払いに関してとつた処置は、さきに認定した代金支払いの約旨に反し、本件売買についても右約旨に反する措置をとろうとしていたことが明らかで、かような被告会社の態度は、継続的な取引関係の相手方たる原告会社に対する背信的行為というを妨げない。
被告会社に右のような背信的行為がある以上、原告会社がこれを理由に将来の取引を断ち切ることができることはいうまでもない。しかし本件売買契約はすでに成立していたのであるから、被告会社の右の背信行為を原因として、原告が直ちに本件売買契約の解除権を取得するということはできない。原告が双務契約たる本件売買契約を解除するためには、まず自己の債務につき履行の提供をすることが必要である。この場合、原告のする履行の提供は、本件売買契約における代金支払いの定めと前認定の被告の態度にかんがみ、何時でも出荷できる準備を整えあることを被告に通知する、いわゆる口頭の提供で足りるであろう。そして原告は、この提供と同時に、被告が代金の支払いを従前の約旨どおりに行うことに納得のゆく措置をとるべきことを、相当の期間を定めて催告すべきものであつた。かような原告の履行の提供および催告に対し、被告が催告期間内に、本件売買代金の支払いを従前の約旨どおりにすべきことを回答し、かつこれについて原告を納得させるに足る措置をとらない限り、原告は、被告が約定期日に約旨に従つた売買代金の支払いを拒否する態度が明らかであるとして、はじめて本件売買契約の解除権を取得するものといわなければならない。
しかるに原告は、かような手段を尽くすことなく、ただちに前金払いの要求を持ち出してこれに固執し、被告が昭和三八年八月一日前金払いの要求に応ずる旨答えたにかかわらず、本件売買契約解除の措置に出たのである。してみると、原告のした右契約解除の意思表示は、未だ適法に解除権を取得していなかつたときになされたもので、無効とすべきであり、さきに認定した、昭和三八年七月二三、四日頃の原告の電話による申入れが、停止条件付契約解除の意思表示であるとみても、同じことである。
右のとおり、原告は適法に本件売買契約の解除権を取得していなかつたにかかわらず、これを解除したとしてその履行をしなかつたことは、本件弁論の全趣旨で明らかであるから、原告はその債務不履行により被告に与えた損害を賠償すべき義務ありといわなければならない。
本件売買契約は、被告がその目的物件を株式会社荏原製作所に納入するためにしたものであるから、被告がこれを転売して利益を得ようとしていたものであることが明らかであり、原告もこの間の事情を知つていたことは、本件弁論の全趣旨から明らかなことである。そして本件売買の目的物件についての株式会社荏原製作所と被告との間の売買契約の内容が、被告主張のとおりであつたことは、乙第一号証の一、二(弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める)によつてこれを認めることができ、また証人阿部安雄の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証によると、本件売買契約が履行された場合に被告が原告に支払うべきであつた運賃実費は、合計金三二七、五四三円であつたことを認めることができる。してみると、本件売買契約が支障なく履行されたならば、被告は、株式会社荏原製作所から受け取るべき売買代金および運賃等の合計一、三三〇、〇〇〇円から、原告に支払うべき売買代金八〇六、一七五円および運賃実費三二七、五四三円の合計一、一三三、七一八円を差引いた残金一九六、二八二円の利益を得ることができたはずである。被告は原告の債務不履行により、右の得べかりし利益を失い、同額の損害を蒙つたことになる。原告は被告に対し、右の損害を賠償すべき義務がある。
(2) 次に、原告が被告からその主張のとおり麻袋および麻袋シートの寄託を受けていたことは、当事者間に争いがない。
しかし証人小松吉男、今川一の各証言によると、右麻袋およびシートは濾過砂等の荷造り用に使う消耗品で、すでに被告との取引に際して使用ずみであることを認めることができ、他にこれらを原告が無断で処分したことを的確に認めさせるに足る証拠はないから、原告の無断処分により被告に損害賠償請求権ありとする被告の主張は、他の点について判断するまでもなく、理由がない。
(3) 以上のとおり、被告は原告に対し、本件売買契約の不履行による一九六、二八二円の損害賠償債権をもつていたわけであるが、昭和三九年四月二七日午前一〇時の本件第一回口頭弁論期日に、被告が原告に対し、原告の本件売掛代金債権と被告の右損害賠償債権とを対当額で相殺すべき旨の意思表示をしたことは、本件訴訟の経過で明らかである。
してみると、被告の相殺の抗弁は、右の限度で理由があり、原告の本件売掛代金債権五一三、四二一円は、そのうち一九六、二八二円が相殺により消滅して、その残債権は三一七、一三九円となる。
三、以上のとおり、被告の相殺の抗弁は一部理由があり、原告の被告に対する本件売掛代金残債権頭は三一七、一三九円であるから、原告の本訴請求は、右三一七、一三九円とこれに対する昭和三九年三月一一日(被告に対する本件訴状送達の日の翌日、記録上明らかである)から完済まで年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は失当として棄却すべきである。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石沢健)
別表(一)<省略>
別表(二)
年 月 日 数量
三七・ 六・二三 二、七三七枚
七・一七 一六〇〃
八・二三 一、九三五〃
一〇・ 九 一、三〇〇〃
一〇・二六 五〇〃
一一・ 六 四八〇〃
一一・一四 二五〇〃
三八・ 一・一七 一、四三五〃
三・ 四 二〇〇〃
三・ 六 三〇〇〃
三・一四 八〇〇〃
三・一八 三〇〇〃
四・二〇 一、五〇〇〃
四・二二 一、九〇〇〃
五・二一 五三〇〃
六・一二 一六二〃
合計 一四、〇三九枚